8年間突っ走った「バイキング」最終回で「しんどかった」と号泣…坂上忍が5年前に語っていた「覚悟」


坂上 (さかがみ しのぶ、1967年(昭和42年)6月1日 - )は、日本の俳優、タレント、演出家、映画監督、司会者、コメンテーター、エッセイスト、ロック歌手。東京都杉並区西荻窪出身。杉並区立荻窪中学校卒業。 4歳上の兄(元子役で現在は映画プロデューサーの坂上
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 そのカメラの前での号泣に、その人が番組の顔として駆け抜けた8年間、背負ってきたものの重さをずっしりと感じ取った。 「よくぞ言ってくれた」という称賛と、それを上回る高圧的な物言い、態度への反発の声―。毀誉褒貶(きよほうへん)の声にさらされ続けた俳優・坂上忍(54)MCのフジテレビ系「バイキングMORE」(月~金曜・午前11時55分)が年度始めの4月1日、最終回を迎えた。 長寿番組「笑っていいとも!」の後を受け、2014年4月に始まった「バイキング」。当初は日替わりMCで、坂上は月曜担当だった。しかし、歯に衣(きぬ)着せぬ発言が人気を博し、15年からは全曜日の総合MCに。坂上の提案によって始めた社会問題やニュースについて徹底討論するスタイルが定着し、20年秋からは「バイキングMORE」として3時間に拡大。フジの昼を支えてきた。 そんな看板番組が迎えた最終回。この日の生放送では終盤の午後2時過ぎから事前収録の「坂上バイキング引退ぶっちゃけ会見」を放送した。 ひな壇の坂上に向かって、テレビプロデューサー・デーブ・スペクター氏やコラムニスト・山田美保子さん(64)らが“直球質問”を連発。「『バイキング』のギャラは?」と聞かれ、「安くはないんじゃないでしょうか」と苦笑いを浮かべた坂上の隣で同席した横粂勝仁弁護士(40)が「うまい棒2000万本くらいです」と珍回答。 同棲中の恋人との「結婚は?」という質問にも「ぶっちゃけ、僕はどっちでもいい。彼女が『する必要がないよ』と言う人なので。『バイキング』を卒業するにあたって聞きましたよ。『人生の節目だけど、改めてどうするって。籍入れてもいいんだよ』って。でも、答えは『全然、必要ないです』って言うのでね。する可能性はゼロではなくて、彼女さんがそういう気持ちになったら、いつでもという感じです」と、それこそ本音で答えた後にクライマックスの瞬間がやってきた。 芸能記者の中西正男氏(47)が「過去のご自身の人生で“やんちゃ”もあった。似たようなニュースが出て来た時、どういう気持ちでお話していたのか?」と、1995年1月に酒酔い運転による道路交通法違反の疑いで現行犯逮捕された坂上の過去を踏まえた厳しい質問をした。 一瞬、表情を引き締めた坂上は「過去に傷があるのに(番組内容を)『時事(ニュース)に切り替えませんか』って(スタッフに)言った時にもう、そういう機会がいつか来るのは分かってました。正直、僕は話したかったです」とポツリ。 「自分の過去のことを言うのは当たり前のことだと思う。僕は当たり前のことをやりたいけど、やったら、僕が楽になるだけなのかなって気もするし。合っているかは分からないけど、この件に関しては絶対に触れないと決めました。マネジャーの『触れないことでたたかれるのは忍さんですから。だったら、それでいいんじゃないですか?』という言葉にも一番、救われたですかね」と続けた。 その上で「だから、その負い目みたいなのは、ずっと持っていました」と言うと、顔を覆って号泣。「でも、しんどかったです。ちょっと、しんど…」と絶句した後、「まあ、いろいろ勉強させていただきましたけど、しんどかったですかね」と涙をぬぐい続けた。 「最後は使っちゃダメだよ、涙(のシーン)は」と言ったところで2時間の会見VTRは終了。そう、坂上が様々な芸能人の不祥事について、コメントするたびにネット上には「おまえの過去はどうなんだ?」「偉そうに人のことを言えるのか?」などの批判の声が必ずあふれた。私も芸能人の起こした交通事故などを報じるたびに普段より無口になる坂上の姿に大きな戸惑いも覚えてきた。 だが、そこに「絶対に触れないことで逆にたたかれる覚悟」があったことを知った時、記憶は一気に5年前の17年12月、フジテレビ6階のスタジオへとフラッシュバックしていた。 「バイキング」5時間特番の収録直後にセッティングしてもらったインタビューで、私は初めて坂上と話した。当時の坂上は民放キー局4局で全9つのレギュラー番組を持つテレビ界のモンスター。話を聞く前に私の頭の中には事前に坂上と並ぶテレビ界の人気者に聞いた言葉があった。 「芸能界で一番すごいと思うのは坂上忍さん。私も結構、いろんなものを犠牲にしてテレビに向き合っていますけど、あの覚悟の仕方を見ていると、この人にはかなわないなと思う」―。 当時、レギュラー番組8本の人気者・マツコ・デラックス(49)が坂上を評して言った、この言葉が、ずっと頭にあったから、坂上にマツコの言葉を伝えた上で聞いてみた。 「今日の収録でも坂上さんの覚悟の強さを感じた。過去には『明日やめてもいいという思いでやっている』とも発言している。その覚悟は、ずっと持ち続けているものなのか?」―。 「変わらないですね、はい」。こちらの目をじっとら見つめた坂上は、そう言い切った。「いい意味で(俳優という)よそ者であることを利用させていただいている。よそからバラエティーの世界に来させていただいているんで、そこで当たり前のようにしがみついてもしようがない」―。 4歳での子役デビューから数えると芸歴50年を越えたベテラン俳優だが、バラエティー、情報番組のMCは専門外。だからこそ「よそ者」として、番組にしがみつくことなく、毎日、真剣勝負をした。一見、乱暴に響くコメント、態度だって、へっちゃらだった。この世界にしがみつこうと思っていないから失うものもないんだ。私はそう感じた。 「バイキング」におけるMC術について「いろいろな事件であるとか、不倫とか、いろいろなものがありますけど、どんなものに対しても情報で埋めるだけではだめ。それに対して、出ている人たちが合っていようと間違っていようと、どう感じているのかっていうのを言葉に出していただこうっていうスタンスなので」と本音で語った坂上。 いつでもやめてやるという覚悟のもと、命がけで日々、番組作りに臨んできたから20年に一部週刊誌でパワハラ疑惑が浮上したようにスタッフにも、共演者にも厳しい言葉や態度が飛び出した。そして、傷つけた―。 厳しすぎる言葉で人を傷つけることを決して良しとはしないし、一緒に仕事をしたくはないタイプとも正直、感じてきたが、こうも思う。番組作りにおいての「覚悟」こそが坂上の個性だったと。俳優として、あえて「嫌われMC」という役柄を演じ切ったようにも見えたし、すべては番組のため、自分を買ってくれているフジのためにという男気も垣間見えた。 この日の最終回の最後の最後。カメラが生放送のスタジオに戻ると、共演者1人1人に「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げ続けた坂上。 「視聴者の皆さんにかわいがっていただいたから8年も続けられたっていうだけです。本当にありがとうございました。僕ら去っていく人間にできるのは、次の番組を応援するってだけですから。『ポップ UP!』は佐野(瑞樹)アナと山崎(夕貴)アナがいたら盤石ですし、総合演出を僕がすごい信頼している方がやられるんで。試行錯誤するとは思いますけど、きっといい番組作りをしてくれる。これまで通り、どうかお昼のこの時間、引き続きご愛顧のほど、よろしくお願い致します」と、後継番組をきっちり番宣。 続けて「最後の23秒間、田中、よろしくお願いします」と、4月スタートの同局「呼び出し先生タナカ」(日曜・午後9時)で初のゴールデン帯MCを務める「アンガールズ」田中卓志(46)に最後の締めを“むちゃ振り”。すべては自分が去った後のフジのことを考えての発言だったのだろう。 この日の番組の中で水曜レギュラーとして共演してきた「おぎやはぎ」矢作兼(50)はその人柄を評して、こう言った。「会って仕事をしたら、みんな、嫌いになる人はいないんじゃないかな。会うまでは多分、嫌われる人だと思う」―。 そう、「会うまでは嫌われる人」坂上は「覚悟」を持って、8年間、月から金曜5日間の帯番組レギュラーという大仕事をこなし続け、今、散りゆく桜のようにMCの座を降りる。「しんどかった」という心からの本音を残して。