プロゴルファーの優勝賞金は 通常 賞金総額の 15% ~ 20% 相当である。米国男子ツアーでは 1位 = 18.0%、2位 = 10.8%、3位 = 6.8%、そして、女子ツアーは 15.0%、9.0%、6.8% になるのが慣例である。一方、日本のツアーの場合は 男子が 1位から 20.0%、10.0%、6.8% の順で、女子は トーナメントによって 多少 異なるが 優勝者は 18% か 20% の優勝賞金を獲得する。いずれにしても、賞金の分配比率は 多少の差こそあれ ツアー間で 極めて類似したものになっているものの 賞金総額と試合数には 大きな違いがある。特に、アメリカの男子ツアーは 別格で 個々の大会の賞金総額が大きく 試合数が多いことに加え、年間を通じての成績 (フェデックスポイント) や シーズンエンドのプレーオフ (フェデックスカップ) の結果次第で 巨額の賞金を選手は 獲得することができる。
♦ 米国 PGA ツアー
2018 - 2019年レギュラーシーズンの米国男子ツアー (PGA) は 年間 42 (46) 試合が行われ、その賞金総額は 3億 3,260万ドル (366億円 @¥110/$) に上る。男子の場合は WGC のような限られた選手だけが出場できる試合がある週に 並行して それに出場できない選手が出場する試合があるので 42週に 46試合というような状況が生まれる。単純に賞金総額を試合数で割ると 723万ドルになる計算だ。2019年からは 少しシステムが変わり、それに加え、シーズンエンドのプレーオフで勝ち残れば さらに 3試合というスケジュールになる。プレーオフの第1戦と2戦の賞金総額は それぞれ 925 万ドルで 最終戦のツアー選手権の賞金総額は 何と 6,000万ドル (優勝には 1,500万ドル) 。また、それとは別に レギュラーシーズンのフェデックスポイント Top 10 の選手には ボーナス賞金 1,000万ドル (1位には 200万ドル) が与えられる。この全てを合算すると年間の賞金総額は 4億 2,110万ドル (463億円 @¥110/$) にも及ぶ。
リーマンショック直後に 米国男子ツアーの試合数や賞金額の先行きには陰りも見えたが、その後 堅調さを取り戻し 賞金は 年々増加した。男子ツアーは 2013 - 2014年からシーズンの始めと終わりが 9月 / 10月に変更されたが、そのシーズンには 初めて プレーヤーズ選手権 (Players Championship) と全米プロ選手権 (PGA Championship) という個々の大会の賞金総額が 1000万ドル(10億円 @¥100/$)の大台に乗った。その後も賞金額は 下のテーブルで示したように 年々増額し 例えば 2019年の全米オープンの賞金総額は 1,250万ドルにまでなっている。2018 - 2019年に行われた試合の中には マイナーな大会で賞金総額が 500万ドル未満のものが 8試合ほどあるが、一方で 賞金総額 800万ドル以上の大会が 16試合もある。特に、メジャー大会においては 2013年の各大会の賞金総額は 殆どが 800万ドル程度であったが 以下の通り 2019年までの僅か6年間で 40% 以上もアップしている。
大会 | マスターズ | 全米オープン | 全英オープン | 全米プロ |
2015 | 1000万ドル | 900万ドル | 630万ポンド | 1000万ドル |
2017 | 1100万ドル | 1200万ドル | 1050万ドル | 1050万ドル |
2019 | 1150万ドル | 1250万ドル | 1075万ドル | 1100万ドル |
♦ フェデックスカップの賞金
何と言っても、男子ツアーの賞金を見る時に忘れてならないのが 2007年から始まった 賞金総額 3,500万ドルという(約 35億円)、優勝賞金 1,000万ドルのフェデックスカップである。それが 2019年からは その賞金が さらに増額された。賞金の分配という意味では 複雑なシステムに変更されたが、レギュラーシーズンの FedEx ポイントのトップ 10 の選手に プレーオフの結果に関係なく 総額 1,000万ドル (1位の選手には 200万ドル) が与えられ、さらに、プレーオフ最終戦を戦う選手 30 名に賞金総額 6,000万ドル (優勝 1,500万ドル) と言う前代未聞の賞金が与えられることになった。プレーオフ最終戦の Tour Championship は それまでの戦績に応じてボーナスポイントが与えられるハンデ戦になるが、出場者全員に優勝のチャンスがあるフォーマットで戦うことになる。それまでのトップ5人にしか自力優勝のチャンスのないシステムとは違い プレーオフ最終戦に残った選手は ハンデを背負うとはいえ 誰しもが 1,500万ドルの優勝賞金を手にする可能性があるフォーマットである。それに 総額 6,000 万ドルという大きな額を 30名の選手で奪い合う訳だから2位以下の選手の取り分も半端ではない。因みに、2位から5位までの選手は それぞれ 500万ドル、400万ドル、300万ドル、250万ドルという賞金を手にする。仮に、レギュラーシーズンを1位の選手が、フェデックスカップでも優勝した場合は、その賞金だけで フェデックスの賞金だけで 1,700万ドルを獲得できる計算で それに レギュラーシーズンとプレーオフの試合の賞金を加えると年間 3,000万ドル以上の賞金を獲得することも可能になった訳だ。これが始まったことで PGA ツアーの年間を通じて争奪される賞金総額は 421百万ドルという額にまで達するようになった。因みに、フェデックスカップの優勝賞金は 2018年までは 賞金総額の 約 28.6% であったものが 新制度では 25% となったが、前述の分配比率とは 大きく異なる。例えば、2007年と 2009年は 賞金王になったタイガー・ウッズがフェデックスカップも優勝したが、その賞金獲得額は フェデックスカップの賞金も加えると すでに 2,000万ドルを突破していた。当時のアメリカ PGA ツアーの年間を通じての優勝賞金総額は ほぼ 3億ドルだから、その 7% 近くをタイガーが獲得していた訳だ。
♦ アメリカ女子 (LPGA) ツアー
一方、米国女子ツアー (LPGA) の大会は 2007年に 年間 34試合あったものが、2009年には 27試合(内米国内では 24試合)、さらに、2010年には 24試合(内米国内では 13試合)にまで激減した経緯がある。それでも、その後は 年々試合数を増やし、2014年に年間 33試合、2016年以降は 34試合と 2007年の水準にまで回復し 賞金総額も 2019年には 7,820万ドル(日本女子ツアーの 約 2倍の規模)にまでになった。個々の大会の賞金総額は 男子以上に 大会間の差が大きく、賞金総額 130万ドル 〜 220万ドルの大会が多いが 所謂 メジャーは 全米女子オープン (550万ドル)、AIG 全英女子オープン (450万ドル)、エヴィアン選手権 (410万ドル)、KPMG 女子 PGA 選手権 (385万ドル)、ANA Inspiration (300万ドル) と他の大会に比べ 賞金も圧倒的に大きくなっている。因みに、AIG 全英女子オープンに優勝した渋野日向子選手は 450万ドルの 15% で 67.5万ドル (約 7,000万円) を獲得している。
一時期のアメリカ女子ツアーのゲーム数減少は 景気低迷とアメリカ人女性スター選手の不在、アジア系選手の台頭などによる女子ツアーの魅力低下が原因だろうが、近年は 景気の回復と共に 欧米系選手の活躍もあり、人気を取り戻してきた観がある。とは言え、女子ツアーの人気が伸びないもう一つの大きな理由は 女子のゴルフ人口の低迷で アメリカのゴルファーの 22.5% は 女性であるが ゴルフが男性のスポーツだと考えている人がアメリカには まだまだ多いと言うことだ。
♦ 国内男子 (JGTO) ツアー
さて、ここで日本の状況を見てみよう。2019年の日本の男子プロゴルフ ツアーのスケジュールを見ると 国内 23試合、海外、2試合の計 25試合である。2016年と比べると 2試合減であるが、2019年は 米 PGA ツアーの ZOZO Championship がスタートすることで それ以前とは 状況が少し異なる。この試合を除く 国内 22試合の賞金総額は 30.8億円で それに国外の 2試合の賞金を加えると 33.0億円になる。さらに ZOZO の賞金 約 10億円を足すと 43億円にまでなるが、ZOZO の賞金の多くは 米 PGA ツアーの選手が手にすることになるだろう。何れにしても、日本ツアーの賞金総額の規模は アメリカツアーの 1/10 にも及ばない状況だ。日本の男子ツアーは 1990年の年間 44試合をピークに年々試合数が減り、2000年に 33試合、そして、2007年には 年間 24試合までになり、その後は 年間 25試合前後で推移している。
それでも、日本の男子ツアーは 賞金総額では ヨーロッパ ツアーに次ぐ世界第 3位のプロ ゴルフ ツアーという位置付けで、賞金総額は 1億円から 1億 5000万円の大会が多く、全日本オープン、太平洋マスターズ、ダンロップ フェニックス、カシオ ワールド オープンなど、賞金総額が 2億円の大会も 5試合ある。それでも、賞金総額が 7000万円の関西オープン、5000万円のダンロップ スリクソン福島オープンゴのような大会もある。つまり、個々のトーナメントの賞金総額は 概ね アメリカの 1/5、また、ヨーロッパの 1/2~1/3 というスケールで 試合数は そのほぼ半分程度という状況である。
♦ 国内女子 (LPGA) ツアー
他方、国内女子ツアーは 2014年に「センチュリー 21 レディース」、2016年に「ニッポンハム レディス クラシック」、23019年には「資生堂 アネッサ レディースオープン」が新設され、日本で行われる US LPGA の公式戦でもある TOTO Japan Classic を含めると年間 39試合である。2019年の賞金総額は 史上最高の 37億 8000万円 プラス TOTO Japan Classic の 150万ドル (約1億 6000万円) で 39億 4000万円になった。つまり、試合数では 女子ツアーが男子より 14試合も多く、賞金総額でも 男子より少し多いと言う 世界的に見れば 不思議な状況になっている。
日本女子ツアーは 2007年にゲーム数が年間 36試合にまで増え、その後も 2008年以降の年間試合数は 37、34、34、34、35、36試合と推移し、2014年に 37試合、2016年には 38試合、そして、2019年には 39試合にまでなった。ただし、トーナメントの賞金総額は 比較的 小額になり 6000万円から 8000万円といったものが少なくなく、男子ツアーの賞金総額の 2/3 程度のトーナメントが多い。とは言え、優勝賞金 1億円以上の大会が 2019年の場合、年間 20試合もあり、日本女子プロゴルフ選手権他、3試合で賞金総額が 2億円と大きなものになっている。
♦ 欧州ツアーの概要、他
ところで、ヨーロッパも ゴルフでは大きな存在であるが、男子ツアーでは ほとんど毎週ゲームが行われており、年間 50試合近いゲームが行われる。しかし、賞金総額は トーナメントごとの格差が大きく、少額なものでは 100万ユーロ(約 1億 3000万円)から、大きなものには 全英オープン(約1,075万ドル)、BMW PGA(700万ドル)もあり、全英オープンのようなものを除けば、ざっと アメリカの半分程度の賞金総額である。
また、女子ツアーは 20~30万ユーロという 賞金規模が日本の半分以下の大会が多く、加えて、2007年の 26試合から 2009年には 24試合へと試合数が減少。2011年、2012年には 27試合までに増えたものの、2014年は 再び 23試合にまで減少し、その存在感が小さくなっている。
以上が ゴルフの賞金に係わる世界の動向であるが、日米の賞金総額の比較では 米 LPGA は メジャー大会は別にしても 主に 150万ドルから 200万ドルのトーナメントが中心であるから、日本の女子の水準は、米国のほぼ 2/3 のスケールということになる。男子の 1/5 とは 比べものにならない訳で、世界的に ランキング上位の外国選手が日本の女子ツアーでプレーをすることになっており、それが人気上昇の一つの要因になっているとも言えよう。結果として、女子プロの賞金王の獲得賞金額が 男子プロを上回ることも少なくないような状況になっているのは ご存知の通り。日本の女子ツアーは 欧 LPGA が賞金総額 20万から 50万ユーロの大会が中心に 年間 19試合(ただし、リコー全英女子オープン、エビアン チャンピョンシップのように賞金総額 410万ドル、450万ドルというビッグなイベントもある)と言う状況だから、試合数では 世界一、そして、賞金総額では 世界二位のツアーと言うことになる。そんな中、日本の男子ツアーがその地位と存在感を高めるには スター選手の出現もさることながら、よりグローバルな視点とビジネスセンスで ツアーの運営を改革できる リーダーの出現が望まれるのかも知れない。
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